ストリートスナップ炎上事件から学ぶ!街中で撮影する際の注意点

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2020年2月、富士フィルムが自社のカメラを使用して渋谷の街中で通行人を撮影した動画がSNS上で炎上し削除される事件がありました。この動画でカメラマンは、道行く人に突然カメラを向けて怪訝な顔をする人々の表情を撮影していたということで、動画を見た人たちから「不愉快だ」などと批判を浴びました。

ここまでの撮影行為をすることはあまり無いかもしれませんが、街中での撮影自体はよくあるシチュエーションです。そこで、街中で撮影をする際にどのような法律が問題となるのか、また許可を得る必要がある場合について解説します。

撮影する場所についての注意点

まず、屋外で撮影をする場合には撮影する場所によって許可を得るべきかの結論が異なります。ここでは、私有地公有地にわけて説明します。

他人の土地や建物内など私有地における撮影

他人が所有する土地や建物の中で撮影のため立ち入る場合には、当然ながら土地や建物所有者から許可を得る必要があります。

民家の敷地に勝手に立ち入って撮影するようなことはまず無いものと思われますが、廃墟や空き地だと人がいないため、ついつい立ち入ってしまうことがあるかもしれません。しかし、廃墟や空き地でも公有地でない限り必ず土地や建物を所有している人がいます。したがって、私有地で撮影をする場合には、所有者や管理者の許可を必ず得る必要があります。

また、商業施設やビル内など誰でも入れる建物であっても、権利者が通常想定していない態様での撮影をする場合はやはり許可が必要です。

他人の土地や建物内での撮影における許可は、撮影が商業目的であっても私的目的であっても本来必要です。ただ、私的な撮影での立ち入りは短時間であれば所有者に対する権利侵害の程度が小さいため問題となりにくいといえます。

これに対し、商用の撮影の場合には他人の権利にフリーライドして利益を得ているという点で問題視されやすいため特に注意が必要です。

なお、許可を得た場合は、後からトラブルになることを避けるために同意書のような書面を作成し、権利者から署名または押印をもらうことが望ましいといえます。権利者が拒否する場合など書面を作成することが難しい場合でも相手とのメールや自分のメモに確認したことを残しておくことをおすすめします。

路上など公有地における撮影

道路以外の公有地、例えば公園や役所の敷地といった場所については前述の『他人の土地や建物内など私有地における撮影』と同様に所有者または管理者の許可を得る必要があります。
ここでは公有地の中でも取り扱いが異なる路上での撮影について解説します。

商用目的での撮影

道路上で通行を妨害する可能性のある撮影を行う場合には、撮影場所を管轄する警察署から道路使用許可を得る必要があります。

ただし、通行を妨げる危険性の少ない撮影行為、例えば通行人の少ない歩道上で数分撮影をするようなケースでは許可を得ることは通常は必要ないでしょう。

反対に、有名人を被写体とするなど人だかりができると想定される場合や、渋谷のスクランブル交差点のような交通量の多い場所で長時間撮影するような場合には、通行の妨害になる危険性が高いため事前に警察から許可を得る必要があります。

更に、道路上に撮影用の機材や車を長時間置く必要がある場合には道路占有許可も取得する必要があります。警察からの許可はすぐに得られるとは限らないため、撮影計画が持ち上がったら早い段階での事前相談をおすすめします。

私的目的での撮影

法律は私的利用か商用利用かで道路使用許可や道路占有許可の要否を分けてはいません。

ただ、私的な目的での撮影の場合は短時間で終わることも多いため、通行の妨害が生じることは少ないといえます。このため、私的な撮影については通行の妨害にならないように注意すれば足り、許可を得ることはあまりないのが実情でしょう。

被写体ごとの注意点

次に、被写体ごとに法的な問題点を解説します。被写体が人であるか建物や自転車などの物であるかによって扱いが異なる点に注意が必要です。

被写体が人の場合

人は誰もが肖像権という、自分の姿を勝手に撮影されたり公表されたりしない権利を持っています。したがって、被写体が人である場合には相手の許可を得てから撮影することが必要です。

ただ、人通りの多い街中で撮影をする場合には背景に多数の通行人が意図せず写り込んでしまうところ、背景に写ったすべての人から許可を得ることは非現実的です。

そもそも、人が写真に写ることがすべてダメというわけではなく、撮影場所や撮影目的、撮影方法などを総合的にみて、被写体にとって社会生活を送る上で「受忍すべき限度」を超えている場合にのみ肖像権侵害として違法となります。「受忍すべき限度」とは簡単にいうと、その程度なら撮影されても文句は言えないと多くの人が思うような程度といったイメージです。

したがって、通行人の正面からカメラを向けてその人が構図上メインとなるような撮影については、「受忍すべき限度」を超えているといえ、肖像権侵害となる可能性が高いでしょう。

これに対し、背景の人の顔が大きく鮮明に写ってはいないような写真であれば、「受忍すべき限度」を超えないものとして肖像権侵害となる可能性は低いといえます。

とはいえ、トラブルを避けるという意味では、通行人が写り込んだ場合には背景をぼかすなどの加工をすることをおすすめします。

被写体が建物、自転車、絵画などの物である場合

商用目的での撮影

被写体が物である場合には、著作権侵害が問題となり得ますが、被写体が人である場合と比較するとそれほど神経質にならなくてよい場合が多いです。

まず、著作権の対象となる「著作物」とは、人の思想や感情が創作的に表現されているものに限られます。簡単にいうと芸術性が認められるものだけが著作物として保護の対象となります。

例えば道路上に置かれたコーンや自動車、自転車などの工業生産品はよほど特殊なペイント等が施されているものでない限り著作物にあたらないので、写り込んでも違法とならないことが通常です。ただし、車のナンバーなどは隠すのがマナーです。

また、撮影でよく問題となる建物についても芸術性のあるもののみが著作権侵害になり得ます。したがって、一般的なビルや住宅の写り込み自体が違法となることはほとんどありません。

一方で、絵画やポスターなどは「著作物」にあたり得ます。

ただ、著作権法では、撮影対象から切り離すことの難しい著作物については著作権侵害にあたらないとしています。したがって、絵画などが被写体の背景に写り込んだ場合は絵画などを意図的に利用するような表現でない限り著作権侵害とはならないといえます。

私的目的での撮影

個人が家族など限られた範囲内で撮影した写真を楽しむ私的利用の場合には、著作権は問題にならないとされています。ただし、撮影した写真をSNS等に掲載して不特定多数の人が閲覧できる状態にする場合には私的利用の範囲を超えているため、上で説明した商用利用と同じ扱いになることに注意が必要です。

トラブルが起きた場合の法的責任

街中での撮影が違法となる場合に、撮影に関わった人たちが負う可能性のある法的責任についてまとめます。

私有地での撮影

私有地に権利者に無断で立ち入って撮影をした場合、そのことが原因で例えば庭の木や花が傷んだなどの実害が生じていれば、損害賠償請求を受けるおそれがあります。

また、権利者の許可を得ずに建物内に立ち入れば建造物侵入罪などに問われる可能性もあるため注意が必要です。

道路上での撮影

道路使用許可や道路占有許可が必要であるのに無許可で撮影をした場合には、懲役または罰金刑の罰則規定があります。

人や物の写り込み

人の写り込みが肖像権侵害となる場合には慰謝料請求を受ける可能性があります。慰謝料の金額は被害を受けた人がどの程度の精神的苦痛を受けたかによって決まるためケースバイケースですが、他人に見られたくない場面を撮影したような場合には金額が高くなることがあります。

一方、建物や自動車、ポスターなどの物の写り込みにより著作権侵害となれば、損害賠償請求や撮影した写真の利用をやめるよう請求されることがあります。著作権侵害については刑事罰も定められています。

まとめ

本記事では街中での撮影について法的な観点から解説しました。

法的に問題ないからOKというわけではなく、最低ラインの法律とマナーの双方を考慮したうえで楽しい撮影ライフを送りましょう。

他人の土地・建物での撮影

  • 原則所有者や管理者の許可が必要
  • 誰でも入れる建物でも商用の場合は特に問題視されやすい
  • 何か破損があれば損害賠償請求
  • 無許可の場合は建造物侵入罪

道路等公有地での撮影(商用私用問わず)

  • 通行妨害の可能性がある場合には道路使用許可が必要
  • 機材や車を長時間置く場合には道路専有許可が必要
  • 無許可の場合は懲役または罰金刑

被写体が人の場合(商用私用問わず)

  • 社会生活を送る上で「受忍すべき限度」を超えると肖像権侵害
  • メインとなる被写体は許可が必要
  • 背景に写ってしまった場合は肖像権侵害となる可能性は低いものの、ぼかす等の加工がマナー
  • 無許可の場合には慰謝料請求

被写体が物の場合

  • 芸術性が認められる物は著作権保護の対象
  • 商用でも一般的なビル・住宅の写り込みが違法になることはほぼない
  • 車のナンバー等は隠すのがマナー
  • 絵やポスター等は著作物(通常の背景の写り込みであれば侵害になりにくい)
  • 私用であれば著作権は問題にならないものの、SNS等は私的範囲を超える
  • 著作権侵害となる場合には損害賠償請求、各種媒体の掲載停止、刑事罰

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